【展覧会概要】羅漢の棲む処

展示趣旨
中津市本耶馬渓町にある禅刹・羅漢寺は、暦応元年(1338)に僧・円龕昭覚によって開かれました。耶馬渓特有の岩壁や岩窟を羅漢の聖地・中国天台山に見立てた寺域には、あたかもそこで修行生活しているように五百羅漢の石仏が配置されています。この羅漢像は、正平14年(1359)に入山した僧・逆流建順が円龕とともに企画し造立したものです。石仏群の図像は宋元時代に大陸で作成された五百羅漢図に共通し、禅宗の伝播・受容とともに日本に招来された文物や思想がベースとなって、石仏群が造られたことがうかがえます。羅漢信仰が広がった江戸時代には民衆の信仰を集め、参詣者が絶えない寺院として発展しました。このような背景が調査により明らかになった羅漢寺石仏は、歴史的・美術史的評価により平成26年(2014)に重要文化財に指定されました。本展覧会では指定10周年を記念して、羅漢寺石仏を取り巻く多様な文化財を展示紹介いたします。
第1章 羅漢とはなにか
羅漢(阿羅漢)とは、釈迦(ブッダ)の弟子たちのことをいい、サンスクリット語のarhanアルハンに由来します。「初転法輪」にみる釈迦に導かれた五人の出家者から、釈迦の「涅槃」のときに寄り添った弟子たち、仏滅後、経典を編むために集まった五百人(「第一結集」)など、経典には仏弟子としての羅漢の物語が著されています。また神通力を持つと考えられた羅漢は信仰の対象にもなりました。中国(宋・元)や高麗と日本とを往来した僧たちがもたらした文物とともに、十六羅漢や五百羅漢の信仰が日本に伝来しました。
仏伝浮彫「マーラの誘惑・降魔成道・初転法輪」(龍谷大学 龍谷ミュージアム)
涅槃図(大分・円通寺)
五百羅漢図 普賢幅( 京都・大應寺)
第2章 聖地を写す
耆闍崛山羅漢寺は、大化元年(645)に天竺より飛来した法道仙人が閻浮提金の観音像を納めたのを開山としています。暦応元年(1338)には禅僧・円龕昭覚が、この山の石橋と滝の景観は羅漢の聖地・中国天台山を想わせるとして、耆闍崛羅漢精舎とよび中興開山となりました。正平14年(1359)には逆流建順が来訪し、円龕とともに釈迦三尊や五百羅漢石仏を制作し安置しました。禅宗法燈派の流れをくむ彼らの構想は、のちに耶馬渓と呼ばれる景勝地に、羅漢の聖地を写すというものでした。
豊州羅漢窟記(大分・羅漢寺)
孤峰覚明(三光国師)像(島根・雲樹寺、重要文化財)
展示期間 3/15~4/13
木造薬師如来坐像(大分・智剛寺/画像提供:文化庁)
第3章 近世・近代の羅漢寺
戦国の動乱で衰退した羅漢寺は、近世には黒田家・細川家・小笠原家と続いた中津城主、そして天領時代には幕府から保護されまし。耶馬渓や青の洞門が全国に知られると、羅漢寺五百羅漢もその名を広め、多くの参拝者が足を運びました。明治維新を迎えると檀越であった武家が力を弱め、また神仏分離・廃仏毀釈といった明治政府の宗教政策が重なりふたたび荒廃しましたが、豊前中津ゆかりの篤志家たちの喜捨もあって復興をとげ、近代には耶馬渓観光の名所として発展しました。
羅漢寺真景図(当館)
真言八祖像(大分・羅漢寺)
第4章 羅漢信仰の広がり
仏師・松雲元慶は諸国修行の途中、豊前羅漢寺の五百羅漢を目にし、自らも五百羅漢を造ることを発願しました。江戸本所に元禄8年(1695)に完成した五百羅漢は、徳川将軍家の帰依を受けて堂舎が建ち、江戸の羅漢信仰の中心となりました。羅漢の信仰は全国に広がり、各地に石造・木造の五百羅漢が作られました。幕末の絵師・狩野一信も五百羅漢図の制作を発願し、各地の羅漢図や本所の木像を参考にして、百幅の大作を増上寺に寄進しました。
木造五百羅漢像 那羅徳尊者(東京・五百羅漢寺、東京都指定有形文化財)
五百羅漢図 第2幅・第28幅(東京国立博物館/Image:TNM Image Archives)
展示期間:第2幅 3/15~4/6 第28幅 4/8~5/6
第5章 五百羅漢図の世界
羅漢寺石仏の羅漢たちの姿は、五百羅漢図に描かれる姿や動きに通じています。特に、宋代に制作された大徳寺伝来五百羅漢図とは、羅漢の図像だけでなく場面にも共通点があります。石梁瀑布に韋駄天が示現する大徳寺本の「観瀑」と、羅漢寺本堂横の滝跡と韋駄天像はそれを象徴しています。本章では、大徳寺本をはじめ、元代の作とされる円覚寺本、それらをベースに十四世紀の画僧・明兆が制作した東福寺本、幕末の絵師・狩野一信が制作した増上寺本と、代表的な五百羅漢図の世界をご覧いただきます。
五百羅漢図 第21幅・第27幅(京都・大徳寺、重要文化財/画像提供:奈良国立博物館)
展示期間:第21幅 4/8~5/6 第27幅 3/15~4/6
五百羅漢図 第5幅・第17幅(神奈川・円覚寺、重要文化財/画像提供:鎌倉国宝館)
展示期間:第5幅 3/15~4/6 第17幅 4/8~5/6
五百羅漢図 第2幅・第3幅(京都・東福寺、重要文化財)
展示期間:第2幅 4/8~5/6 第3幅 3/15~4/6
五百羅漢図 第9幅・第10幅(東京・増上寺、港区指定有形文化財)